第89号 「震災後の海から見える変わらない景色、変わった景色」紺野祐樹

第89号 「震災後の海から見える変わらない景色、変わった景色」2014.2.28配信

 東日本大震災からまもなく3年。宮城県でシーカヤックガイドを生業にしていた私も、昨年の春からようやく本格的なツアーやスクールの再開に漕ぎつけました。海の上から見る景色は、震災前も後も、ほとんど変わっていません。変わったのは、人が住んでいた場所だけ。

 もちろん、地盤沈下の影響で砂浜が消失したり、塩害で木が枯れたりしている場所も多くありますが、遠目に見ると立ち枯れの木が目にとまるぐらいで、震災前に比べて特に変わった景色がみられるわけではありません。海の中をのぞいてみると、未だに震災時の瓦礫(家の破片や漁具の残骸)が残っていますが、そんな瓦礫にも生き物たちが住み着いています。人間にとっては、未曾有の大災害だった震災も、自然のサイクルの一部に過ぎない。震災後の海を漕いでいると、自然の変化の少なさからいつもそう思ってしまいます。

 大きく変わったのは、人が住んでいた場所です。沿岸部の平地は、瓦礫の撤去も進んで更地になり、盛り土工事も始まっています。海の上からも、高台移転のために山々が切り拓かれている様子が見られます。驚くのは、居住地の復興は中々進んでいない状況で、漁港の復旧が早いこと。震災とその後の大雨で崩落した道路はそのままですが、漁港の多くは既に岸壁や防波堤だけとはいえ復旧が進んでいます。
さらに、震災前から人が住んでいなかった小さな浜(背後に田んぼがあった)の防潮堤工事が急ピッチで進んでいたのには驚きました。農業や漁業など、産業の復興が重要なのは分かりますが、落ち着いて帰れる家が無いままに、3年が過ぎようとしている身としては、複雑な心境です。被災地では今、あまりにも巨大な防潮堤の計画が、地元の人もよく分からないうちに「住民の同意」を得たとして進められつつ有り、様々な波紋を広げています。無人島の耕作放棄地の防潮堤を復旧させようとしたり、一度の「説明会」で「意見が出なかった」から住
民が「同意」しているとする行政・・・。賛成派と反対派の地域内での軋轢・・・。生活再建に手一杯の住民の隙を突くようなやりかたを耳にすると、復興にかこつけて海岸線がコンクリートで覆われてしまうのでは無いかと感じてしまいます。

 宮城の海辺は、未だ復興の途上ですが、海辺の景色はあまり変わっていません。また、復興途上の今だからこそ、津波で破壊された防潮堤や護岸などが見られます。そして、変わらない自然と、変わり果てた人が住んでいた場所。今だから見える景色の中を、これからも漕ぎ続けて行きたいと思います。

(株)銀河自然学舎 アースクエスト 紺野祐樹
http://shizengakusha.co.jp/

2014年02月28日|キーワード:震災