第63号「拡大グッズの勧め」古瀬浩史

第63号「拡大グッズの勧め」2011.12.26配信

 僕は、拡大グッズが好きである。

 ここで言う拡大グッズとは、虫めがねや顕微鏡、望遠鏡など、小さいものや遠くのものを拡大して見ることのできる道具のことだ。子供の頃からなぜかこういったものが好きで、100円均一のショップで売っているような虫めがねから、天体望遠鏡などちょっと値の張る光学機器まで、よそさそうなものを見つけるとつい欲しくなってしまう。

 おかげで自宅や事務所には、殆ど使わないものを含めていろいろんな拡大グッズが転がっている(だいたいは安価なものばかりだけれども)。

 海の自然体験活動の中で、僕は自然観察的な活動をすることが多い。自然観察では拡大グッズはとても大きな効果を生み出す。

 そこで海の自然観察における拡大グッズの効果を思いつくまま書いてみたいと思う。

■フッキング効果

 フッキング(Hooking)とはインタープリテーションの業界用語では、参加者の関心を惹きつけることを言う。いわゆる「つかみ」である。拡大グッズにはこのフッキングの効果が強い。

例えば、小さな子供たちに、虫めがねを配って「さあ、生き物を観察しよう!」と声をかけたら、多くの子供達がすぐその気になってくれるだろう。大人でも、だれかが三脚に望遠鏡を立てて覗いているのをみたら多くの人が自分も覗いてみたくなるのではなかろうか。なので、自然観察的な行事では必ずしも小さなもの拡大してみる必要性がない場合でも、虫めがねなどを用意する場合が多い。

■小さい生物を見る

 拡大グッズだから、あたりまえなのだが、海の自然観察においてはこのことはとても大きな意味を持つ。海の小さい生物といえば、まず思いつくのは「プランクトン」であろう。プランクトンは「浮遊生物」の意味なので必ずしも小さい生物を指すわけではないけれども、ご存知のよう

に海の中には肉眼では全く見えないくらい小さいものを含めて様々なサイズのプランクトンがいる。多くの海洋生物が生活史の一時期をプランクトンとして過ごしているし、食物連鎖の理解においても重要だ。海の自然をマクロに理解する上で不可欠な要素だと言ってよい。だから僕はプランクトンの観察を定番プログラムとして子供から大人までに幅広く実施している。

これを可能にするのがもちろん拡大グッズである。

 動物プランクトンであれば、10倍~15倍くらいのルーペで観察可能。安価な虫めがねを連結してルーペを自作することもできる。動きのある動物プランクトンは、これくらいの倍率のほうが見ていて楽しい。驚くべきことに、10倍位のルーペは100円均一の店でも売られている(十分に使用に耐えるけれども、レンズの中心部分しかピントが合わないものが多いので、もう少し支出したほうが無難ではある)。

 もちろん20倍くらいの実体顕微鏡(商品名「ファーブル」など)があれば、よりお大きくみることができる。植物プランクトンは100倍くらいの、いわゆる光学顕微鏡(小学校などで使うやつ)が必要だが、これも安価なものも売られており、それほど大きな予算は必要としない。

ただし野外での使用には難がある。

■拡大して見ることの面白さ

 拡大してみるということは、通常はみられない世界を見るということであり、対象が何であったとしても本質的に面白い事なのだと思う。

 昔、エコツアーのガイドとしてバードウォッチングのプログラムをやっていた時、僕はプログラムの隠れた狙いを、参加者に双眼鏡を買ってもらうことにおいていた。別に僕が売るわけではないので営業上の理由では無く、マイ双眼鏡を持つことがその人の自然観察の動機をググっと高めると思ったからだ。顕微鏡もまた同じで、それを持つことでいろいろなものを見てみたくなる。もちろん何を観察するかが大切ではあるのだけれども、「知らない世界を見てみたい・・」という気持ちを育むこともまた重要であろう。拡大グッズにはそんな効果があるように思う。

 さて、拡大グッズがオソロシイのは上を見たら際限なく高価かつ高品質なものがあることだ。高価な双眼鏡などが持っている人がいるとたいていお願いして覗かせてもらうのだが、見た瞬間に像のシャープさに驚かされる。顕微鏡から天体望遠鏡まで、満足のいくものを揃えようと思ったら、宝くじでも当てるしか方法はない。そんな不確実性を期待してばかりはいられないので、安価で質の良い拡大グッズを探し求める日々である。

 同好の方、もしいらしたら、ぜひ情報交換させていただきたい。

(株)自然教育研究センター 取締役(CNAC理事) 古瀬浩史
http://www.ces-net.jp/

2011年12月26日|キーワード:生き物