第199号「水底質浄化問題と『底浄協』」小山彰

第199号「水底質浄化問題と『底浄協』」2023.4.28配信

私がお世話になっている一般社団法人 水底質浄化技術協会(以下、「底浄協」と称す)は、1975年3月に当時の運輸省と建設省との共管による社団法人 底質浄化協会として発足した歴史ある協会です。当時を顧みますと、急拡大する工業化が我が国経済をけん引し、高度経済成長を享受していた時期でした。同時に公害と言われる大気汚染、水質汚染、有害物質の堆積等が各地で発生し、人々の通常生活がままならないほどの大きな社会問題になった時期でもありました。特に有害物質・有機物質を含んだ堆積物、すなわちヘドロ(HEDORO)の処理・無害化は喫緊の課題でありました。
私事ですが、1979年に運輸省に入って最初の勤務地が第四港湾建設局下関調査設計事務所でした。2年目に水俣港の岸壁設計を担当しましたが、課題はまさに水銀で汚染された水俣湾の底泥を港湾施設や埋立によって永久に封じ込めることでした。
港湾や浅海域、河川や湖沼などに堆積するヘドロの処理・無害化には、浚渫などの土木技術にとどまらず、水を抜く水処理技術、改質を期待する化学的・生物的処理技術など広範な実務技術を結集する必要がありました。「底浄協」は、これら専門的な技術を集約・駆使して、問題解決に取り組み、社会的責務を果たして参りました。
この間の水質や底質の浄化に関わる言葉を拾ってみると、ヘドロはもちろんですが、水銀、PCB、それに赤潮、青潮、富栄養化、総量規制、ダイオキシン類などあまり印象の良くない言葉が並んでしまいます。
機関誌「HEDORO」は、「底浄協」設立以前の任意団体であった1974年6月から発刊しており、2023年1月号で第142号にまで積み重ねています。「HERODO」はれっきとした日本語ですが、今日では使ったり見かけたりする機会が少なくなった言葉です。しかし、ヘドロ処理で苦労した方々にとっては、相当に思い入れのある言葉と察します。
一方近年は、大雑把な表現を使うと、海がきれいになり過ぎた、きれいな海よりも豊かな海が欲しという意見が聞かれるようになりました。海という大自然を相手にして、海の生物にとっても植生にとっても、はたまた人間の生活にとっても貴重な海を大切にしなければという意識が嘗てなく強まっています。
日頃から海辺にて多種多様な活動をされているCNACの皆様はどのように感じておられるでしょうか。
「底浄協」は、一貫して水質・底質の浄化処理に取組んできております。水質・底質の浄化問題は、令和の時代においても引き続き大きな課題と認識しています。しかしながら、近年ではより積極的に環境の修復・創造に係る取り組みも主要テーマとして実施しております。従来どちらかと言えば嫌われものであった浚渫土砂を建設材料への改質、干潟・浅場造成のアンコ材としての有効活用などは実用化されていますが、さらに浚渫土砂や底質が植生にとって海の肥しとなるような役割を果たせないかと夢見ております。
気候変動が深刻化する中、カーボンニュートラルの実現やブルーカーボン生態系の育成といった大目標の達成を目指して、培ってきた水質・底質浄化技術でもって社会に貢献できるよう、引き続きの努力を重ねたいと考えております。

一般社団法人 水底質浄化技術協会専務理事  小山彰
http://www.stjk.sakura.ne.jp/
2023年4月14日|キーワード:環境、ブルーカーボン