第101号 國枝佳明

第101号 2015.2.27配信

1.はじめに

 科学技術が発展し、ハイテクの船舶が地球のいたるところを駆け巡る今、なぜ帆船なのですか?という質問をよくいただきます。私は「海を、すなわち自然を身近に感ずることができるからです。」とお答えしています。帆船で航海をすると、自然の厳しさ、優しさを含め、自然そのものを最も身近に感じ、いろんなこと考えることができます。これは船員にとって欠かせないものだと思っています。もちろん船員以外の人にとっても必要なことだとは思いますが、海を舞台に日々生活をし、そこで仕事をする船員にはより大切なことだと思います。そんな船員に興味を持ち、帆船を愛し、海の広報にボランティアでご尽力されている帆船海王丸クラブという団体があります。

2.帆船海王丸クラブ

 帆船海王丸クラブは、帆船海王丸に体験航海した方々の集まりで、「海王丸との交流を深め、会員相互の親睦を図り、併せて(公財)海技教育財団が行う体験乗船等に関する事業の推進に協力し、海事思想の普及に寄与すること」を目的としています。

 帆船海王丸には、一般社会人向け体験航海のコースがあります。『体験航海参加者は、東京海洋大学などの商船系学校の学生とともに海王丸に乗船し、訓練の一部や船内生活を体験し、洋上で自然と向き合い、自己を見つめ直すことができます。』という謳い文句で、海技教育財団が帆船海王丸を使って行っている事業です。この体験航海に参加し、クラブの目的に賛同する方々の集まりである帆船海王丸クラブは、多分に海事広報のためのボランティア団体の色彩が濃い団体です。もちろん会員相互の親睦を深めることもありますが、帆船の寄港地で帆船の紹介や質問に答える、ビデオや写真による帆船の紹介、帆船グッズの販売のお手伝いなど、傍で見ていて頭の下がる思いです。

3.被災地復興支援企画

 帆船海王丸クラブは2012年と2013年の夏休み期間に東北被災地の高校生を海王丸の体験航海に招待する企画を実施しました。クラブ会員の寄付により実施する企画のため多くの高校生を招待することはできませんが、会員の皆さんのボランティアにより、高校生の自宅から乗船地までの移動、乗船前・下船後の宿泊の手配、下船地での見学企画や下船地から自宅までの移動などを含めた種々のお世話をしました。2年目のコースは秋田県の船川港から東京までの航海で、東京港で下船後のお世話をお手伝いすることになりました。海王丸下船後、東京海洋大学を訪問して百周年記念館の見学、夕食を摂って“夜のはとバス”ミニツアーの引率をクラブの方と行いました。高校生は1年生から3年生まで、また異なる学校から参加した18名でしたが、海王丸の乗船ですっかり打ち解けた様子でした。海王丸では船酔いもしたようでしたが、海王丸の乗船に満足していました。中には東京海洋大を受験しますという生徒もいて、お手伝いのやり甲斐がありました。


 海を間近に感じ、自然と向き合うことで自分を見つめ直す良い機会に恵まれたのではないかと思います。生き生きとした輝く目をしていると感じられたのは、私の欲目からだけではないと思います。皆、きちんと挨拶ができるようになっており、「5分前精神」の時間を守ることができるようになっていたことは、海王丸乗船の効果ではないかと思います。彼らが海や船の道に進んでくれるようになれば、それに越したことはありませんが、海と向き合う体験を通して少しでも社会人としての基礎的な能力を身に着けたと実感できたことは大きな喜びでした。

4.おわりに

 2年続いた復興支援企画は、事前の調査・学校の先生との打ち合わせなど大変な労力が必要な内容でしたが、高校生たちの満足気な笑顔でご苦労が十分に報われたと思います。今後も、気軽に海や船に触れ合うことで、生きる力や豊かな心を育むことのできる企画を願っています。また、帆船海王丸が縁で知り合った人々の活動がこれからも長く続くことを願っています。

東京海洋大学 先端科学技術研究センター 國枝 佳明
http://www.kaiyodai.ac.jp/sentanken/

帆船海王丸クラブ
http://www1.ocn.ne.jp/~kaiomaru/club/

2015年02月27日