第85号「周防灘の海原と少年自然の家」2013.10.25配信
3階の展望台に立ち双眼鏡で海を見つめます。寄せては引く遠浅の渚から、500M先の水面に坊主頭が浮上しました。その頭は一瞬のうちに水中へ。20秒後には再び水面に現れます。遠目には灰色のブイが動いて行くようです。土地の古老たちは、この生き物を「ナメタ」と呼んでいます。スナメリです。
私たち、玄海グリーン&アドベンチャー共同企業体は平成25年4月から、ここ北九州市立もじ少年自然の家の指定管理業務を受託致しました。周防灘と磯山が出会う場所、目の前は、喜多久干潟と呼ばれる小さな干潟が広がります。昭和56年7月に開所した当施設は北九州市で3番目の少年自然の家、海洋体験施設として、毎年3万6千人余りの利用者が訪れています。
指定管理業務がスタートして、私たちがまず始めたことは、目の前に広がる海そのものを知ることでした。天候の変化、季節ごとの風向、干満の差、里山の植生、海の生物。半年余りで体験し理解できたことはごくわずかですが、今では、この施設を取り巻く自然の豊かさを実感しています。先にお話した、スナメリは、真夏を除き施設の前に広がる干潟の海を周回しています。秋になれば、ほぼ毎日観察できるほど生息数の多い海域です。また、今年の夏、カブトガニの姿も確認することができました。冬の北西風が吹き始める11月、岬の断崖には、希少種のゲンカイイワレンゲがピンク色の花を咲かせます。
北九州市は明治期より、鉄鋼業を中心とした工業地帯を形成し、それに伴う港湾整備が進んだため、海岸線全長210キロのうち、自然海浜はわずか39.3キロまで狭められています。
いまや、干潟や砂浜は人工造成地に姿を換え、そこに広がっていた豊かな自然景観を思い起こすこともできなくなりました。僅かに残った自然海浜とその場にしがみつくように生きている動植物の姿を見て、私たちは自問します。無くしてしまった自然環境をいたずらに嘆くより、今ここに残る自然の姿から失ったものの大きさを学ぶ、そこから未来に広がる郷土の海を想像する。そんな海洋体験プログラムが必要なのだ、と。
「海が子どもを大きくする。山が子どもを元気にする」
私たち、もじ少年自然の家が掲げる、もどかしくもワクワクするミッションです。
もじ少年自然の家 所長 西胤正弘
http://www.moji-syounen.com/