第215号「海の自然体験と海業」2024.8.30配信
「海業」という言葉はご存じですか?海の生業と書いて「うみぎょう」と呼びます。1985年に当時の神奈川県三浦市長が提唱した造語が発祥で、すでに40年ほど前から使われてきました。国では2022年に閣議決定した水産基本法に初めて「海業」を盛り込み、2023年度から全国で振興モデル地区を選定し、現在は全国54地区が選定されています。今後おおむね500件の取組み実施を目指しています。全国には約2,800の漁港がありますので約2割に当たります。
水産庁は海業を「水産業と相互に補完し合う産業」と定義しており、漁港を拠点に釣りやプレジャーボートなどのレジャー、水産物直売所や飲食などで交流人口を増やす取組とし、漁協や自治体、漁業者や民間事業者らが主体としています。2024年4月に施行された改正漁港漁場整備法では、上限10年であった漁港施設の民間や漁業者への貸与期間を30年に延長されました。また、漁港水面施設運営権(みなし物件)の取得(最長10年、更新可)も可能となりました。水面固有の資源を利用した遊漁や漁業体験活動、海洋環境に関する体験活動等を行うため水面を占有して施設を設置し運営する権利です。このように民間投資が進む環境が制度面から整備されたで、今後の利用促進が期待されます。
海の地域資源を活用した体験や六次産業化は従来から漁村振興策として各地で取組まれてきましたが、地域に定着した例は多くはありません。しかし、海の体験活動を行う立場から見ると、漁港というインフラはとても魅力的な存在です。静穏な海面、駐車場やトイレ、カヤックが下せるスロープ等の設備に加え、新鮮な魚介類を使った食や海洋環境のプログラムが安全快適に開催する環境が整うわけです。
マーケティング的な視点から考えると、水産業の本来機能である安定的な水産物サプライチェーン(供給連鎖)に加えて、「海業」による新たな活動がバリューチェーン(価値連鎖)として消費者へ伝わることで、水産物や地域の付加価値化となるでしょう。
CNACでは海を安全に楽しんでもらえるプログラム開発を行ってきました。そして、地域の海をフィールドとした会員団体は、漁業者との関係をつむぎ、都市部との交流機会を創出してきました。これらのノウハウは「海業」にとっても役に立つものです。皆さんの活動地域にも海業に取組む漁港が出来てくることでしょうから、是非とも関りをもっていただきたいと思います。
CNAC副代表理事 大塚英治(株式会社沿海調査エンジニアリング代表取締役社長)
資料参照:水産庁「海業」ホームページ: 海業の推進:水産庁 (maff.go.jp)
2024年8月22日|キーワード:観光、漁業