第56号 2011.5.30配信
北海道には、日本海、太平洋、オホーツク海と3つの異なる海があり、各地域での海との関わりも様々です。オホーツク海では以前は漁業の邪魔者として嫌われていた「流氷」が、今では観光資源となり、地球上で最南端であることから流氷が地球温暖化のバロメーターとも言われています。オホーツク海と太平洋の接点となる「知床」は海と陸との食物連鎖を見ることのできる貴重な自然環境が残る点が評価され世界自然遺産と成りました。どちらの地域も流氷や親潮の豊さに支えられた漁業が地域を支えています。一方、日本海沿岸は札幌圏の都市部に近く透明度が高い温暖で「海あそび」に適してはいますが、漁業生産は低く地域が豊かとは言えません。
そんな日本海の最近の問題は、深刻化する「磯焼け」です。海水温の上昇により藻場の勢力が失われたところへウニの過剰な食圧が加わり、海藻の生育が持続的に失われていく状態です。藻場が失われれば生物多様性が失われ、漁業生産力が著しく低下し漁村の活力も失われてしまいます。
「磯焼け」対策はここ30年の間、様々な試みがなされてきましたが、唯一効果が見られるものとしてウニ除去があります。そこで日本海の漁村・積丹町(しゃこたん)では漁業者とレジャーダイバーの協働によるウニ除去活動が水産庁の事業として行われています。一般に漁村は閉鎖的であると言われ、特に漁業者とダイバーとの関係は難しく、「ダイバー=密漁者」と考える漁業者も少なくありません。漁業者と地域に愛着を持つダイバーの接点が生れたことで、懐疑的であった関係は好転し美しい海を守り育てる活動に向けて協働体制ができあがったことは、全国的に稀な事例ですし、大規模な漁業地域ではできなかったものと思います。
また、地域経済という視点から考えても、さらに地域が一体となって真剣に取り組まなければならない状況にあります。これまでは漁業者が中心となって海域の利用・保全・管理を担ってきたが、マリンレジャーの利用が増加し、市民の環境意識の高まりと教育の場としての利用が進む等、これまでの枠組みでは収まりきらなくなった現状があり、沿岸域の総合的管理を様々な主体が担うルール作りや社会システムが求められてきています。
現在、積丹町では回復した藻場で、活動に参加する漁業者とダイバーが子ども達に海の魅力を伝えるシュノーケリング教室を実施しています。藻場が回復することで漁業者は良質なウニを水揚げし、藻場に集まる魚をレジャーダイバーが楽しむ、子ども達が海に学び体験する「笑顔」から大人たちは元気をもらう、このみんながハッピーとなる循環が人々の絆をつくり、地域を活性化していく原動力となっているようです。また、海洋環境保全活動が基盤産業である漁業に深く関わることで、地元小学校の学習テーマに取り上げられるなど地域に広がりつつあります。
以前「体験活動は公共事業の髪飾りみたいなものだ」と言われたことがあります。しかし、海が地域資源である漁村の元気再生には、本来機能ばかりではなく多面的機能を含めた多様な魅力に地域が自信を持ち、可視化することで都市と漁村の交流を活性化できるかがポイントと言えるのではないでしょうか。海とともに暮らす漁業が地域経済の基盤となり、担い手を惹きつけることができればと願ってやみません。
CNAC理事 大塚 英治・ほっかいどう海の学校 事務局長