第202号「海とサンゴ礁の国キリバス訪問の思い出」2023.7.28配信
今から30年前の1993年11月に、JICAの無償資金協力事業関連のミッションで初めてキリバス共和国(以下、キリバス)を訪問した。キリバスは、赤道直下にあり、東西4,500km、南北2,050kmの広大な水域に33の島(環礁)を有する国である。人口は約12万人(2020年キリバス統計局)、国土の総面積は811㎢と国のほとんどが海であり、世界第3位の広大な排他的経済水域も有している。産業は農業と水産業が中心で、オセアニアで最も貧しい国とされ、後発開発途上国に指定されている。
訪問の目的は、首都タラワ島の南部に位置するベシオ港に貨物船を入港させるための改修事業をキリバス政府が日本政府に協力依頼してきたものの、現地情報が定かでないため、開発調査を実施する必要があり、その調査のスコープについてキリバス政府と合意を取るためであった。
当時、キリバスへは、ジェット旅客機で成田空港からフィジーのナンディ国際空港まで9時間、そこからさらにプロペラ機でタラワ島のボンリキ国際空港まで8時間(現在はジェット旅客機で3時間)、同国に到着するまで2日間を要した。宿泊先は唯一の国営で比較的設備の整ったホテルであったが、サンゴ礁の土地柄、水の確保は難しく、貴重な雨水をタンクに貯留して使用していたことから、ホテルの水は朝2時間、夕方2時間しか部屋に供給されなかった。
タラワ島は、アルファベット“L”を左右逆にした環礁であり、環礁の西側にラグーン(礁湖)が広がっている。環礁の南側が政治・経済の中心となっており、東から西にかけて、ボンリキ国際空港、文教地区のビケニベウ、官庁街のバイリキ、港湾地区のベシオとなっている。バイリキとベシオは元々陸地でつながっていなかったことから日本政府の援助で埋立道路(コーズウェイ)が整備され、現地ではニッポン・コーズウェイと呼ばれている。太平洋戦争中は、旧日本軍が占領し、米軍との激戦地として知られている。現在でも、ベシオ地区には旧日本軍の砲台やトーチカが残されている。
さて、調査の対象となったベシオ港は、当時、東側突堤と西側の短い突堤に囲まれた細長い形状の港であり、狭い航路を通って南奥に水深2~3m程度の狭い泊地と岸壁が存在する程度であった。荷役の際は貨物船が沖止めし、そこから小型船やバージ船にコンテナや貨物を積み替えて港奥の岸壁まで運ぶという効率の悪い状況となっていた。このため、貨物船を沖止めせず、港に直接接岸して荷役を行える施設整備をキリバス政府が要請してきた。無償資金協力事業の投資額はそれほど大きくないことから、東側突堤の先端付近に1,000DWT程度の貨物船が接岸できる施設整備等の開発調査を実施することでキリバス政府と合意した。
現地での滞在期間は10日程度であったと思うが、その間、キリバス政府の要請もあり、首都タラワ島以外に、近隣のいくつかの島の港やキリバス国東端にある世界最大の環礁クリスマス島の港にも訪問した。近隣の島々にはセスナ機で、クリスマス島にはジェット旅客機で移動したが、セスナ機に乗った際、エンジンカバーのねじが取れて無くなっているところをガムテープを張って凌いでいるのには驚いた。タラワ島の北側に位置するブタリタリ島に訪問した際は、現地の人曰く、旧日本軍の高田少尉が不時着したという飛行機の残骸を目にした。また、クリスマス島は戦後、イギリスとアメリカの核実験場とされた時期があったが、今は、フィッシングのメッカとなっている。いずれの島においても環礁内は波が穏やかであり、エメラルドグリーンの海が広がっていた。
当時、現地の人に聞いたところでは、砂浜が天然のトイレになっているらしく、朝方には点々と転がっていることがあるので、砂浜を散歩するときは足元によく注意を払うべしとのアドバイスを受けた。人口が少ないことから、砂浜から流れていったものが自然浄化力で分解されて海が汚れることは無いのだろうと思ったが、シュノーケリングをする際は、ビーチに近いところでやってはいけないのではとも思った。
現在、キリバスの最も深刻な問題は、海抜3.5mを超える島がほとんどないことから、地球温暖化による海面上昇で国土の半数以上が水没の危機にあること。政府によって全国民の他国への移住計画も発表されているが、移住させるためには熟練労働者として移住させたいとの思いから、キリバスでの職業訓練支援を日本、米国、豪州などに呼び掛けている。 これまで、狭い国土の中で農業と水産業を中心としたCO2をあまり排出しない産業構造でありながら、地球温暖化の影響で水没の危機にあることは何とも悲しい現実である。
地球温暖化対策は、全世界が自国の利益だけに目を向けずに、もっと真剣に取り組むべき課題として、改めて認識すべきことと思う。
JFEエンジニアリング株式会社 顧問 角 浩美
https://www.jfe-eng.co.jp/
2023年7月26日|キーワード:島、環境