第197号「学生の論文指導を通じて海とかかわる」2023.2.24配信
立春を過ぎ、少しずつ太陽の暖かさが増すこの頃、会員のみなさまは、どのようにお過ごしでしょうか。わたくし、千足(ちあし)は仕事上の年度末でもあり、様々な報告書の作成、次年度の授業等に向けた準備をコツコツと進めつつ、雪山(スキーやスノーボーディング)にも通っております(雪も溶ければ水で、沢や河川を通じ海に繋がっています..)。雪山には、多くの外国人が戻ってきており、JAPOW(日本のパウダースノー)を楽しんでいる様子がうかがえます。来るシーズンには、海にもたくさんの外国人が押し寄せることが予想されます。自然を楽しむ人がいる一方で、研究室では学生たちが卒業論文や修士論文を作成するため、机(パソコン)にかじりついています。今年は、3名の学部生と1名の大学院生が卒業および修了を予定しており、最終発表会に向けてまとめに入ってきた頃です。学部の学生たちのテーマは「被引浮体における安全対策の実態と課題」「釣り(フィッシング)の現状と諸問題および持続可能性に関する研究」「学生時代にセーリングを行っていた者のセーリング継続要因」というタイトルのもので、いずれも海洋スポーツや海洋性レクリエーション活動が抱える問題点について、主として質問紙調査や聞き取り調査を通じて論じているものです。また、修士論文については「エコツアーにおける熟練パドリングガイドのセーフティマネジメント」というもので、パドリングガイドを対象に、聞き取り調査を行ったデータを詳細に分析しようとしたものです。
「何となく、感覚的にはそう思っているんだけど..」といったことがらを、データ収集することによって明確にしたり、新たな発見があったりというのが研究の意義や楽しさでもあります。
水上オートバイやプレジャーボート等を用いた被引浮体(トーイング遊具)の牽引では、ヘルメットやプロテクターを装着し、ウエットスーツやマリンブーツなどの服装を準備する必要性が改めて示されています。そして、安全性を高めるためには、牽引する側に見張りを同乗させるとともに、事前にハンドサインなどを決めて、搭乗中に被牽引者とコミュニケーションをどのように図るかなどの打ち合わせをしておくことの重要性に加えて、牽引するドライバーの安全にかかる意識が重要であることも示されました。
コロナ禍で流行を見せた「釣り」においては、一部の釣り人による釣り場の不適切な利用やマナー違反・違法駐車等によって、釣りが禁止される場所が生じているといった実態に危惧を感じた学生が、釣り人の環境保全意識が重要と予想し、環境保全意識と環境配慮行動といったことがらの関連を調査によって明らかにしようと試みました。
また、大学在学中に部活動やサークルでセーリング(ヨット)に取り組む人々が、卒業後にどの程度継続しているのか、そして継続するための要因は何かを追究するために、大学在学中にヨットを経験した方々を対象とした調査を実施しています。
修士論文の「パドリングガイドのセーフティマネジメント」では、パドリングガイドへのインタビューで得た膨大なテキストデータからカテゴリー化した上位概念を、ベース、Safety-Ⅰ、Safety-Ⅱといった階層および、エコツアーの事前、事中、事後の時間軸に分類して示し、熟練ガイドのセーフティマネジメントの特徴と構造をある程度示すことが出来ております。
これらの研究成果は、社会ですぐに役立つかどうかは分かりませんが、調査研究を地道に継続していくことで、例えば、私たちの取り組んでいる活動の安全性を向上させることに貢献したり、活動の意義をわかりやすく示したりすることに貢献できるのではないかと考えています。
会員の皆様にもご協力を賜りながら、会員の皆様の疑問にもお答えできるような、(楽しい)研究活動を続けて参ります。率先して取り組むべき課題や興味あるテーマなどありましたら、お気軽にお声がけください。また、研究成果に興味がありましたら、千足研究室のホームページにアクセスくださいますと嬉しいです(chiashi.jp)
東京海洋大学学術研究院・教授 CNAC理事 千足耕一(ちあしこういち)
2023年2月8日|キーワード:教育