第189号「 縁(えにし) の国、出雲 vol.2(vol.1 は第113号参照)」2022.6.24配信
突然ですが、島根県をご存知でしょうか。Google によると「本州西部の日本海沿岸部にある山がちで人口の少ない県」だそうです。あ、砂漠はありませ ん。県土の約78%が森林に覆われている島根県ですが、海岸線総延長は1,000km超もあるんですよ。これはもう「海」無しでは語れないですね。そんな島 根県の人口約66万人のうち、約7割が住む県東部「出雲地方」の子どもたちを主対象に、私たち「くにびき自然学校」は自然体験活動を提供し始め、今年で 10年目となりました。 出雲といえば、出雲大社。ご存知「縁結び」の神、だいこく様です。この「縁」は男女の縁だけではなく、生きとし生けるものが共に豊かに栄えていくため の貴い結びつきで、私たちの暮らしのあらゆるところに散りばめられている、なくてはならないものといえるでしょう。 ここ出雲では様々な「縁」が、日々、日常的に発動されます。この季節だと、山に行けばヘビに出会い、森にいれば狐が素通り、川をのぞくとキラキラと小 石が流れていく。そんな些細な偶然に、子どもたちの目は輝き、たくさんの「知りたい!」があふれてきます。そうした姿を見ると、ああ、自然から「ご 縁」をいただいたなぁと思うわけです。 ところで「海に学ぶ」って良いですよね。「学ばせる」でもなく、「教えられる」でもなく、「学ぼう」でも「知ろう」でもない。ただ、そこにいるだけ で、自然と「学ぶ」不思議。脳科学によると、子どもって、自ら熱中して取り組んでる時が一番学習(シナプスが活性化) してるそうです。気温が高くなり、 海へ行く機会が増えましたが、子どもたちに一生懸命「このマイクロプラスチックがね…」と訴えても、何一つ響きません。それが、とりあえず海で遊ぶと 「これ何?いっぱい浮かんでる」って興味を持ってくれて、「ほんとだ!何だろう?」って一緒に考えて初めて「学び」が始まるんです。そうして「何 で?」が広がっていくのを見ると、ああ、海が「ご縁」を結んでくれたんだなぁと嬉しくなります。 もちろん「縁」が結ばれない時もあります。魚が全く釣れなかったり、漂流物の中に注射器が見つからなかったり…。でもそれは大人が勝手に意図して期待 した「縁」。そうか今じゃなかったんだなと割り切ると、「この貝食べれる?」「ペットボトルに変な字書いてある!」といった、ありのままの子どもたち の声が聞こえてきます。きっとこれこそが、海が結んでくれた、今日の「ご縁」。海はいつだって、今の私たちにぴったりの学びを用意してくれているんで すよね。 コロナ禍もあり、人と人との結びつきが希薄になったと取り沙汰されていますが、森、山、川、海など自然と身近に暮らす私たちにとってそんなことは全く ありません。近所の方が差し入れてくれた枇杷も、港の漁師さんが譲ってくれた魚も、みんな「ご縁」です。その魚を「さばきたい!」と言い海で一緒に練 習した子が、家に持ち帰って台所でさばくと、胃からカニとか貝が出てきたと聞いた時は両手を上げて喜びました。 時には、環境問題はじめ大人が意図して与える価値も必要ですが、海が結んでくれる「縁」を大切に、子どもたちが自ずと「海に学ぶ」機会も、大事にして いきたいです。そうして子どもたち自身によって生み出された価値って、必ず次の世代、またその次の世代へと、その「縁」が結ばれていくんですよね。くにびき自然学校代表 佐藤しのぶ
http://www.kunibiki.org/
2022年6月21日|キーワード:体験、環境