第187号「湾奥の悲しみ」2022.4.28配信
「うみ*にゅう」のコラムを見ていて感じるものがあります。それは、多くの方々の活動場所が自然豊かな美しい海であるということで、それは大変幸せなことです。しかし、私たちの活動場所である葛西の海は違います。東京湾の一番奥にあり、そこは、私の先祖が代々暮らしてきた場所でした。私の小さい頃までは自然豊かな海があり、子供たちは皆、海で泳いだり、あさりやはまぐりをとったりしていました。
ところが、前回の東京オリンピックの行われた頃、日本は高度経済成長の波に乗り、東京への一極集中が進みました。その弊害として、生活排水や工場からの汚水が大量に流れ込み、海は見る間に汚染され、大量の魚が浮いたり、奇形魚が現れたり、葛西の人々の生活を支えてきた海苔もとれなくなりました。
これに憤慨した漁師たちは、製紙工場の排水口をふさぐなどの暴動も起こりました(本州製紙事件)が、それもむなしく、やがて私たちの漁業権は放棄され、漁師は陸に上がらざるを得なくなりました。その後、海は埋め立てられ、海は私たちから遠ざかってしまいました。
ふるさと東京を考える実行委員会は、東京湾奥の失われた「自然」と「ふるさと」とその「文化」を再生することを目的として、決してきれいとはいえない海で春夏秋冬、暑いときも寒いときも活動を続けています。それは、命がけの戦いでもあります。次世代の子供たちに「つけ」を回してはいけない。豊かな自然を再生し、守りつなげていく。そう思ってみんな頑張っています。 このような東京湾再生の活動にとって最大の課題は、「管理のための管理社会」です。行政における「ことなかれ主義」では、「再生」は不可能であり、また、各種規制とこれに伴う許認可システムは、「再生」を行おうとする人々の足を引っ張ることになっています。日本が現在の低迷から脱却するためには、縦割りの「管理社会のひずみ」から脱却し、俯瞰的にものを捉えることのできる社会が、必要不可欠であると私は常々感じています。 海は、世界へとつながっています。個々の活動が世界と日本、日本とそれぞれの地域というように俯瞰して観て、次世代のためにいかに「尽くせるか」といった観点から活動目標を立て、組織を運営していくことが求められているではないでしょうか。
CNAC理事/認定NPO法人ふるさと東京を考える実行委員会 理事長 関口雄三
http://www.furusato-tokyo.org/
2022年4月18日|キーワード:海、自然