第173号「久々生(くびしょう)海岸を未来へつなぐ」川口眞矢

第173号「久々生(くびしょう)海岸を未来へつなぐ」2021.2.26配信

 

静岡県御前崎市に拠点を置き活動を行う、NPO法人Earth Communicationの川口と申します。『はじめまして!』の方が多くいらっしゃるかと思いますが、今回お声がけをいただき、コラムを書かせていただくこととなりました。宜しくお願いします。

~~ 『御前崎』ってどんなところ? ~~
マリンスポーツをされる方や海でさまざまな活動をされる方は、ご存知の方も多くいらっしゃるかと思います。ですが、あまり海に馴染みが無い方たちからは、「御前崎ってどこですか?」という質問が多く返ってきます。それは、静岡県内の方であっても同様…。
東日本大震災以降は、浜岡原子力発電所がある町として広く知られることとなりましたが、「どこなのか?」ということまでは、あまり知られていないのが現状です。どこなのか?と聞かれた際に僕が返す言葉は大体決まっていて、「静岡県の真ん中辺りの、海に向かってとんがっているところ。」といった感じ…。それでもあまりピンとされないことがほとんどで、「よく台風中継で、海の荒れている様子が映し出されるところ!」というと、「あぁ~!」といった感じ。生まれ育ちが御前崎の僕であっても、これ以上、「どこなのか?」を説明するいい方法が想い浮かばないのが事実。静岡県にはいろいろな特徴のある海や海岸・海の街が存在するため、なかなかパッとしたイメージを持っていただき辛いんだと感じています。
そんな御前崎ですが、太平洋に面した外海では、サーフィンやウインドサーフィンなどのマリンスポーツが盛んに行われ、駿河湾に面した内海には海水浴場や漁港だけでなく、国際コンテナターミナルがあり、みなとオアシスとして認定されています。また最近では、釣り文化振興モデル港としても認定され、さまざまな特徴のある海の町なんです。

~~ 田舎の子こそ、地元の自然を知らない ~~
僕たちは今、御前崎を拠点にさまざまな自然体験活動や環境保全活動、指導者育成などに取り組んでいます。そんな僕たちを応援してくださる行政の方たちと共に、未就学の子どもから大人の方まで幅広い年齢の方を対象に、地元の自然や文化・産業に触れる体験活動やいざという時に役立つアウトドアスキルを学ぶプログラムなど、目的に合わせたさまざまな活動を行なっています。
僕自身は、県内他地域や県外でも活動を行なっていることもあり、本当に多くの方と関わらせていただく機会があります。そんなこともあり、よく思うこと・感じることは、『田舎(地元)の子どもたちこそ、地元の自然を知らない』。そして同時に、『自然の中での遊び方を知らない…』ということ。地元の子どもたちからすると、自然があることが当たり前!となってしまっているため、特段、興味をひくものではないようです。また、多方面で言われている『保護者の皆さんの自然離れ』や『自然に触れた経験の少なさ』も影響しているのだと思います。このようなことは、御前崎に限った話ではなく、さまざまな地域で起こっていることだと思います。このような現状を『少しずつでも変えていけたら!』、そんな思いで活動を行っています。

~~ 名前を失った(?)海岸に、あるはずのないモノが?! ~~
御前崎市内でさまざまな活動をさせていただく中、御前崎の海にはあるはずのない(!?)『コアマモ』が自生・群生している状況を、ある海岸で偶然見付けました。海の中(アマモ場)には、多くの稚魚や幼魚、ワレカラ、オクヨウジなどが生息していることがわかりました。海岸ではコアジサシやハヤブサが採餌のために飛来し、渡り鳥などの多くの鳥たちが羽休めをする海岸にもなり、これまでの御前崎の海のイメージとは違った、海岸環境がありました。
「どうしてこれまで見付けられずにいたのか?」同時に、「潮の流れがはやく、波あたりの強い御前崎に、どうしてコアマモが自生・群生しているのか?」ということには、共通の理由があると考えています。
コアマモが自生・群生している海岸は『久々生(くびしょう)海岸』と言います。その海岸は、多くの方から忘れられてしまった海岸であり、子どもたちはこの海岸の存在を知りません。
小学生の頃の僕にとっては、実家から一番近く身近な海岸でした。しかし、20年ほど前から沖合に港が造成され、人家のある側には、防災のための防波壁や大きく分厚い陸門がつくられ…。今となっては、陸から海岸に立ち入るどころか、陸上からこの海岸を間近に見ることすらできない状況になってしまいました。自然の中で活動をする多くの方からは、とてもネガティブなイメージが強いかと思います。ですが、この『造成等により、人が簡単に立ち入ることができない状況』と『長い年月』が、海岸の環境を大きく変化させ、幸か不幸か、元々そこにはなかったコアマモが自生・群生する、今となっては貴重な海岸へと変化させたのだと思います。

~~ 里海としての保全のかたち ~~
そしてもう一つ。久々生海岸は、もともと岩場の多い海岸でした。それが、港などの造成の影響により海流が変わり、砂や泥が流れ着くようになったのだと思われます。その結果、長い年月をかけて砂泥が堆積し、そこにコアマモが自生することになったのだと考えられます。しかし同時に、海洋ゴミも漂着し、溜まりやすい海岸へと変化していました。
何年か分の溜まった漂着ゴミを集中的に回収するため、2020年1月~3月の間に10回(10時間)のビーチクリーンを行い、約11,000リットル分、約650キロ分の漂着ゴミを回収しました。そのほとんどがペットボトルや発泡スチロール、ビニール袋など…。漁港が近いこともあり、漁網や釣り具もたくさん漂着していました。嬉しい(貴重な)変化がある一方で、海が抱える課題を目の当たりにする変化も起きているのが、現在の久々生海岸です。
御前崎市にとって造成された港は、町の産業を支える大切なものになっていることは事実で、これを否定することはできません。だからと言って、久々生海岸の現状を見過ごすこともできません。おそらく、このような状況の海岸はここだけではなく、いろいろな地域に存在しているのだと思います。
現在の久々生海岸の環境は、人間が作り上げた二次的な海岸環境であると考えます。だからこそ、『里海』として保全される仕組みを作り、海洋環境教育の場として活かし、関係機関の方だけでなく、少しでも多くの方に海の現状を知っていただく『きっかけづくりの場』にすることができたらと考えています。
そして、より良いかたちで自然と共存し、豊かな海を未来の子どもたちに残していけることを願い、活動を続けていきます。

NPO法人Earth Communication 代表理事 川口眞矢
HP:https://earth-commu.jimdo.com/ FB:https://www.facebook.com/Earth.Commu/

2021年2月16日|キーワード:アマモ、海ごみ、教育、体験