第171号「西暦2020年東京オリンピック延期とコロナ渦の中」2020.12.25配信
きわめて個人的な思いを述べながら、今年を振り返ってみたい。正月元旦2020(令和二)年は普通に明け、東京オリンピックの空手競技の入場券が幸運にも当選し、宿を取るのに四苦八苦していた。54年前高校の部活で始めた空手がオリンピックの種目になるなど、夢のまた夢である。「冥土の土産に!」そんな暢気な悩みを打ち消すように、中国武漢発の新型コロナウィルス(COVID-19)は静かに年明け前に牙を世界に向け始めていた。
半世紀ほど前に保健学を学んだ私にとって『感染症は克服されつつあり、これからは生活習慣病の予防が保健の主なるテーマとなる』と述べた当時の教授の言葉が思い出された。「そんなことはなかったのか?」4月の新年度が始まるにつれ、非常勤講師として携わっていた幾つかの学校でもその対応を巡り目まぐるしく結論が翻った。それぞれに対応が異なり、また、遠隔授業などで使用する機材やソフトも異なるものだった。日本の教育界が長年の制度疲労によるツケが一気に回ってきた。初めての経験でテクノストレスに苛まれながらも、指示されたその務めを果たすので精一杯だった。
そんな中、夏を迎え、海水浴場の開設が話題に上がるようになった。三密を避けるため、『海水浴場を開設しない。プールを開設しない。』そんな声が聞こえ始めた。当クラブが孫請けで担う遠賀郡芦屋町の海浜公園ではプールの閉鎖と海水浴場の開設を決断した。それでも、三密を防ぐため、感染予防の対策を整える事を条件とされ、溺者救助の感染防止対策などを詰め、急ぎ準備せざるをえなかった。全てが初めての経験である。海図のない航海へ漕ぎ出した。
警察庁から水難事故統計(2020年9月10日発表)が発表され、『今年の夏(7~8月)の水の事故は前年より43件多く504件で616人が水に流されるなどし、このうち52人は新型コロナウィルスの影響で閉鎖された海水浴場で事故に遭っていた。』との内容であった。渦に巻き込まれ、息もできない状態で奈落の底に落ちてゆく、今までは当たり前だと思っていたことが、実は恵みであった。そんな思いで体を小さく丸め谷底を蹴って、水面に顔が浮かび上がる。そんな幻が見える。竹は強くてしなやかだ。節があるからかもしれない。
今年はそんな節を創るための年であったと振り返ることが出来る様にしたい。守るべきことと、大胆に変えることを正しく判断したい。第三波の只中でも2021年は開けようとしている。新型コロナウィルスは私たちにもう一度過去を振り返り、未来を見据えるように、見えない事柄を白日の基に曝け出したのだ。夜明け前の深淵の中で一条の光を見出すように。
NPO法人玄海ライフセービングクラブ 代表理事 佐藤茂夫
https://genkai-lsc.info/